小説「サークル○サークル」01-224. 「加速」

アスカは映画の話が進むにつれて、憂鬱な気分になった。なぜなら、不倫をしている男女の三角関係のストーリーだったからだ。洋画だったので、なんだか少し遠い世界の物語のような気がしたのがせめてもの救いだった。
アスカはつい浮気をされている妻ではなく、浮気相手に感情移入してしまう。それは自分とその女とを重ね合わせて見てしまっているからだ。
レナを横目で見遣ると、真剣な眼差しをスクリーンに向けているのがわかった。
なんたが当てつけみたいね……とアスカは内心思ったが、映画に夢中になっているレナを見て、まぁ、いいか、という気持ちになった。
映画の中で妻は言う。いかに不倫で低俗で野蛮なのかを。けれど、不倫をしている女は言う。いかに不倫が魅力的でスリリングかを。二人の会話は平行線を辿る。男はそれを遠くから見ているだけだ。
そうだ。男はいつだってずるい。
アスカの気持ちはそこへ辿り着く。一度に二人の女性を愛してしまうのは仕方のないことなのかもしれない。それが男の本能なのだというのならば、女は諦めるしかないのかもしれない。
だからと言って、自分のやっていることを全て正当化しようとするその態度にアスカは次第に腹が立っていた。

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