小説「サークル○サークル」01-216. 「加速」

「そんなに大したものじゃないよ」
普段なら、照れ笑うかもしれなかったが、感情の起伏も特になく、シンゴは答える。
「最近、仕事はどう?」
シンゴはドキドキしながら訊いた。どんな言葉がアスカの口から聞こえて来ても、平静を装わなければ、と思いながら、アスカの言葉を待つ。
「順調よ。取り敢えず、浮気相手のコには顔を覚えてもらったから、常連になる作戦は成功ってところね。あとは上手く接触していくだけよ」
シンゴはほっと胸を撫で下ろす。自分が想像していた最悪の返答ではなかったからだ。けれど、気になっていることを訊かずにはいられなかった。
「ターゲットとはどう?」
シンゴの言葉にアスカは食事の手を止めた。
「どう……って言われても、バーで仕事をしてた時以降、会ってないのよね……」
「ホントに?」
シンゴは思わず、ほんの少しの間も置かず、問うていた。
「ホントよ。接触する理由がないもの。ターゲットがどうかしたの?」
「えっ……いや、特に何もないんだけど……。ちょっと気になって」
「変な人ね」
アスカは笑うと、再びスクランブルエッグを食べ始めた。
自分の思い過ごしなのだろうか?
シンゴはそう思ったけれど、事実は何もわからない。アスカにしかわからないのだ。

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