小説「サークル○サークル」01-211. 「加速」

アスカが帰って来たのは、昼過ぎだった。
「ごめん、事務所で寝ちゃってて」
アスカは帰って来るなり言った。確かに洋服もそのままだし、入浴した形跡もない。特に他の男の香りがするということもなかった。
そこまで考えて、シンゴは自分の考えていることに苦笑しそうになる。そんなに気になるなら、本人に聞いてしまった方が早い。なのに、訊くことすら出来ないのだ。どれだけ、自分が臆病なのかを目の当たりにしている気がした。
「お風呂入る?」
「うん、入りたい」
「じゃあ、今沸かしてくるよ」
「ありがとう。シンゴはいつも優しいよね」
アスカは嬉しそうに言う。その言葉に他意はない。けれど、アスカの今の言葉にシンゴはささやかな引っ掛かりを覚えた。
“いつも”とは一体誰と比較しているのだろう。“いつも”は優しくない誰かと比べられているのだろうか、とシンゴは良くない方向へと考える。そんな考えを払拭するように、かぶりを振ると、シンゴはバスルームへと向かった。

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