小説「サークル○サークル」01-195. 「加速」

 シンゴは返す言葉を探したけれど、上手い言葉が見つけられない。小説を書く時はあんなにも言葉が溢れるのに、話すとなると、なかなか上手くいかなかった。シンゴは沈黙に耐えられなくなりながら、芝生を駆けまわる犬に視線を向けた。動き回る犬を目で追えば追うほど、考えがまとまらなくなっていく。
 沈黙に耐えられなくなったのか、ユウキが真剣な面持ちで話し始めた。
「だから、シンゴさんと一緒に尾行して、尾行のコツを掴みたいっていうか……」
「ちょっと待って。君はその女の子を尾行しようとしてるの?」
 シンゴは眉間に皺を寄せて、ユウキを見た。ユウキは真剣な面持ちのまま、シンゴを見て、一つ静かに頷いた。
「……それは、その女の子の不倫現場を押さえたいから?」
「はい、その通りです」
 ユウキの返事には重みがあった。相当、思い詰めているらしい。シンゴはそんなユウキの気持ちを想像し、溜め息がつきたくなった。
「やめた方がいい」
 シンゴは駆け回る犬に再び視線を向けて言った。犬は楽しそうに飼い主の投げたフリスビー目がけて、ジャンプしたところだった。

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