小説「サークル○サークル」01-189. 「加速」

 アスカはバーの仕事を辞めてから、ヒサシには会っていない。ヒサシと会っていたのは、接触が目的であり、その接触は仕事だった。その為、アスカは積極的に動くことが必要だったし、動くことが出来た。自分の恋心だけで接触を試みようとしていたのであれば、結婚していることがちらつき、きっとアスカは躊躇したに違いない。
 アスカにとって、ヒサシはターゲットであると同時に、気になる存在だ。けれど、それを表に出すことも出来なければ、ヒサシに打ち明けることも出来ない。
 ヒサシに誘われた時、もしヒサシの誘いに乗っていたら……そう思うことも正直あった。考えること自体がナンセンスだということはわかっているけれど、それでも考えてしまう。それくらい、アスカの心は未だヒサシに傾いていた。
 勿論、アスカは冷静さを忘れてはいない。だからこそ、シンゴとの関係を修復しようともしているし、ヒサシと唯一接触できるバーも必要がなくなれば、すぐさま辞めた。そうした判断をした自分を見て、アスカは仕事とプライベートの線引きが自分には出来るということに安心していた。仕事とプライベートの境目が曖昧になった時、そのどちらも上手くいかないのだということをアスカは経験から知っていたからだった。

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