小説「サークル○サークル」01-173. 「加速」

「それじゃあ、決まりだね。取り敢えず、ジムの入会申し込みをしなくちゃいけない」
「そうね、今日の夕方行ってくるわ」
「バーの仕事は辞めてしまったわけだから、設定上、別の仕事に就く必要がある」
「でも、私が演じられて、バレそうもない仕事なんて、別れさせ屋くらいしか思いつかないわ」
 アスカは不安げな表情を浮かべ、シンゴを見た。
「それなら、問題ないよ。別れさせ屋だって答えればいい」
「ターゲットの不倫相手よ!? そんなこと出来るわけないじゃない」
「自分とその不倫相手をターゲットにしている別れさせ屋が、自分から別れさせ屋だって明かすなんてことはないだろう? 裏をかくんだよ。きっと相手は油断する」
「そんな……リスクが高すぎるわ」
「リスクは高いかもしれない。でも、レナのプロフィールを見る限り、その方が効果的だと僕は思う」
 自信に満ちた表情でシンゴは言う。アスカはそんなリスクの高いことは出来ないと思いながらも、シンゴがそこまで言うのなら、大丈夫なのではないかと思っていた。
「……わかったわ。シンゴがそこまで言うなら、それで行きましょう。詳しい設定は帰宅後に見せて」
 アスカはシンゴの瞳をじっと見つめてそう言うと、パスタを再びフォークに巻き始めた。パスタはもうすっかり冷めてしまっていた。

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