小説「サークル○サークル」01-167. 「加速」

 シンゴは書斎にこもり、プロフィールに色々な情報をつけ足していた。わざとらしくならないように、だけど、しっかりとこだわりを持って、作り上げていく。これはシンゴが自分の作品の登場人物を作る時と同じだった。
 シンゴにとって、一度作った登場人物は小説の中のキャラクターというよりは、実在している人物に近い存在だった。それは彼が登場人物を作る時に、その人物の過去を作り込むからだろう。こういうことがあったから、こういう発言をするような性格になっていった。こんな経験をしたから、こういう対応を自然と出来るなど、彼の作り出す登場人物は、生きている人間同様の経験と理由、過去が用意されていた。だから、その登場人物たちが何かを言われた時、どのように返すかと問われれば、「多分、彼はこんな風に言うのだと思います」と伝聞形式でシンゴは答えた。彼にとって、登場人物は一度生まれてしまえば、自分の作り出したキャラクターではなく、生きている第三者となんら変わりない存在へとなる。
 けれど、その感覚を理解してくれ、というのはなかなか難しい。だから、シンゴはアスカにそんな話をしたことはなかった。でも、今はそんな話をアスカにするのも悪くないかな、と思っている。もしかしたら、今回のアスカの元に舞い込んできた仕事は自分たちに良い何かをもたらすのではないか、とさえ思っていた。――アスカの浮気を除いてだが。

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