小説「サークル○サークル」01-164. 「加速」

 翌朝、シンゴがリビングに行くと珍しくアスカがいた。
「おはよう」
 アスカがソファに座ったまま、笑顔を向ける。
「おはよう」
 寝ぼけたまま、シンゴはアスカに言うと、洗面所へと向かった。顔を洗い、ひげをそると、再び寝室に戻り、洋服へと着替える。
 そして、もう一度、ソファに座るアスカに「おはよう」と言った。
「珍しいね、君がこんな時間に家にいるなんて」
「今日は朝から事務所に行っても、する仕事がないの。だから、家にいるのよ。コーヒーでも飲む?」
「ああ、もらおうかな」
 こんなやりとりをしたのはいつ振りだろう、とシンゴは記憶を遡る。しかし、思い出せなかった。
 家事はいつもシンゴがやっていたし、アスカからこういった類の優しさを向けられることは、ここ数年なかった。それだけ、アスカと関係性にヒビが入っていたということだ。
 けれど、皮肉なことにアスカが浮気をしてから、シンゴとアスカの仲は急激に温かくなったのだ。そして、シンゴも今になって、夫婦の関係性について考えるようになっていた。

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