小説「サークル○サークル」01-151. 「加速」

 アスカの別れさせ屋としての勘が外れていて、ただ単にアスカの嫉妬心を煽るだけの為にヒサシがあの女をつれて来たのかもしれない、とほんの一瞬アスカは思った。思ったというより、そう思うことによって、自分が傷付かないようにしているのだ。あんな若い女の子に自分が勝てるとは到底思えなかったからだ。
 コースターに視線を落とし、しばし見つめる。かけてしまおうか、と思ったものの、何も出来ずにアスカはコースターをゴミ箱に捨てた。
 けれど、ヒサシの番号はしっかりと目に焼きついていた。いつだって、コールをすれば、ヒサシが出る。ヒサシが出れば、わざわざこの店でなくとも、ヒサシと繋がることが出来るのだ。
 そこまで考えて、アスカはかぶりを振った。自分の浅はかな考えに思わず苦笑する。あくまで自分がしているのは仕事であって、恋愛ではない。何度同じ問答を繰り返したら、心が揺れずに済むのだろう、とアスカはふと思う。そして、アスカは知っていた。会わなければ次第に恋心は薄れていく。だったら、接触さえしなければいいのだ。
 アスカは深呼吸をすると、マスターの元へと向かった。

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