小説「サークル○サークル」01-145. 「加速」

「あのさ……」
「何?」
「昨日の夜のことなんだけど……」
「あぁ、やっぱり、怒ってる?」
 アスカの言葉に胃の辺りが何かにきゅっと掴まれるような感覚に襲われる。シンゴは浮気の告白を覚悟した。
「仕事が忙しくて、バーでの仕事を終えた後、そのまま事務所で仕事をしてたのよ。どうしても、今日の午前中までに目を通さないといけない書類があって」
「そうだったんだ……」
「ごめんなさい。電話を入れるべきだったわよね」
「あぁ、心配してたんだ」
 シンゴは喉元まで出かかった「本当は浮気してたんだろう?」という言葉をぐっと飲み込んだ。アスカが嘘をつき通そうとしているということは、自分との結婚生活を壊したくないということだ、と考えたのだ。結婚生活を壊したくないと思っているということは、浮気は単なる火遊びかもしれないし、間が差しただけかもしれない。少なくとも、浮気相手より自分が優位に立っているのであれば、夫婦関係の修復は可能だと思った。それならば、今は何も言わないのが得策だ。
 しかし、それはそれで苦痛が伴うものだということをシンゴは痛感していた。

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