小説「サークル○サークル」01-131. 「加速」

「おかえり」
 何食わぬ顔でシンゴは帰宅したアスカを出迎えた。
「こんな遅くまで起きてるなんてどうしたの? もう寝てると思ってたわ」
「仕事をしてたんだ」
「小説の?」
 アスカは驚いたように言う。
「そうだよ。依頼が来たんだ」
「良かったじゃない。これでまた小説が書けるのね」
 アスカは嬉しそうに微笑んだ。アスカのこんな顔を見られることは滅多にない。シンゴは心の底から嬉しかった。幸せな気持ちのまま、今日を終わろらせようかと思ったけれど、やはり気になってしまい、訊くことにした。
「最近、仕事はどうなの?」
「仕事? いつも通りよ」
「ターゲットとは接触出来てる?」
「それは勿論。お風呂入って来るわね。まだ起きてるなら、あとで一緒にビールでも飲みましょう」
「大丈夫なのかい? こんな遅くに飲んで」
「大丈夫よ。今日はそんなに飲んで来てないし。あなたの仕事の再開を祝いたい気分なの」
 アスカはそう言って、風呂場へと消えていった。
 ターゲットとの接触について、アスカは詳しく喋らなかった。それはシンゴを心配させまいとしているのか、それとも、やましい気持ちがあるからなのか。アスカに訊かなければわからないことだった。でも、シンゴに訊くことは出来ない。きっと両方なのだろう、とシンゴは思うことにした。

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