小説「サークル○サークル」01-127. 「加速」

 ヒサシと不倫相手を別れさせる為の方法は、ヒサシにアプローチをかける以外にも用意している。そちらの方法を取ればいいだけ、とは思うものの、ヒサシへのアプローチが上手くいっている以上、別れさせ屋として、こちらの方法を優先すべきだという気持ちもあった。
「黙っているということは、イエスととってもいいのかな?」
 ヒサシは眼鏡の奥のその大きな目でアスカを見上げた。
「それは……」
 はっきりとノーとは言えない自分に苛立ちが募る。アスカはヒサシの視線を遮るように床に視線を落とした。
「今日は閉店まで?」
「……はい」
「ふーん……そっか」
 ヒサシはそれきり何も言わなかった。アスカは不安を募らせながらも、どこか期待している自分に溜め息を零した。

 バーでの仕事が終わり、アスカは裏口から出て、駅の方向へと歩き出す。タクシー乗り場へ向かう為だ。
「お疲れ様」
 声がした方に視線を向けば、そこにはヒサシが立っていた。閉店からすでに三十分が経っていた。

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