小説「サークル○サークル」01-118. 「加速」

 やがて、アスカに知り合うけれど、その時はすでにシンゴはうだつのあがらない作家だった。それでも、彼女はシンゴを愛してくれたし、シンゴも彼女を愛していた。自分の仕事の状況を考えると不安しかなかったけれど、シンゴは意を決してプロポーズをし、めでたく彼はアスカと結婚出来ることとなった。しかし、不幸にもその数日後、持っていた数本の連載が改変期と共に全て消えてしまった。シンゴは仕事はなくなったものの、アスカと結婚していた為に生活が出来なくなるという非常事態を避けることが出来た。ただアスカにとっては災難だったとしか言いようがない。勿論、シンゴはそのことをとても申し訳なく思っていた。
 けれど、不思議なものでそういった感覚と言うのは、日に日に麻痺してくる。その証拠にシンゴは小説を書かず、家事に勤しんでいた。家事のやりがいや楽しさに気付いたシンゴは、急激にのめり込んでいった。作家というよりは、主夫だ。シンゴの手の込んだ料理はその頃のなごりだった。
 このままではいけない気持ちが全くなかったわけではない。いつだって、シンゴの心の片隅には危機感があった。だからこそ、彼は小説を書こうと何度も試みた。試みるだけで終わってしまったのは、彼にやる気がないのではなく、それが上手く実を結ばなかっただけだったのだ。

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