小説「サークル○サークル」01-103. 「加速」

 次にシンゴがユウキに出会ったのは、あれから数日後のことだった。アスカは仕事に行き、部屋の片付けや洗濯を終えたシンゴは、気分転換にふらふらと近くの公園にやって来ていた。シンゴはベンチでぼーっと何の変哲もない景色を眺めているだけだった。人はほとんどいない。何かくれるんじゃないかと期待して鳩が数羽、シンゴの周りへ寄って来たが、何もくれないとわかると、愛想を尽かしたように一斉に飛び立って行った。
 何かの相手をするほどの気力はシンゴには残っていなかった。家事をしただけで、体力と気力を奪われてしまう自分に溜め息をつきたくなる。
 空は晴れ、時折、風に乗って雲が流れた。空を見ていると、自分がとってもちっぽけで、自分の仕事の悩みやアスカが浮気に走りそうだということがどうでも良いことのような気になった。それは嫌な気持ちが和らぐという意味では良いのかもしれないが、何も解決に導かれていない、ということを考えると必ずしも良いとは言い切れなかった。シンゴはそのことに気が付いて、はっする。思わず、今度は本当に大きな溜め息が口から零れた。
「どうしたんですか? 溜め息なんかついて」
 突然、声が飛んできて、シンゴはドキリとした。声のした方を向くと、そこにはユウキが立っていた。

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