小説「サークル○サークル」01-99. 「加速」

 あくる朝、アスカを仕事に送り出すと、シンゴはぼーっとする頭のまま、コンビニエンスストアへと向かった。買う物は決めていない。ただ家でじっとしていられなかっただけだった。
「いらっしゃいませ」という明るい声がシンゴの元に届いて、はっとして顔を上げた。二十歳前後の茶髪の青年がこちらを見て、笑顔を向けていた。つられて、シンゴは引きつった笑顔を青年に向ける。適当に雑誌を立ち読みし、弁当を一つ手にしてレジへと向かった。
「いらっしゃいませ」
 少年はまた愛想良く言った。
「398円です。お弁当は温めますか?」
「はい」と答えて、シンゴは財布の中の小銭をのぞき込む。キリの良い小銭がありそうだと思って、しばし財布の中とにらめっこしたものの、1円足りずに諦めて、千円札を出した。野口英世に笑われているような気がした。
「ごめん、これで」
 シンゴが言うと、少年は「千円お預かりします」と言った。会計を済ませ、つり銭を受け取り、弁当が出来上がるまでレジの横にどこうとした時だった。少年がシンゴの目をしっかりと見据えた。シンゴは思わず息を飲んだ。

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