小説「サークル○サークル」01-98. 「加速」

 その日の晩、シンゴはなかなか眠れなかった。アスカが口籠った理由はだいたい察しがつく。それを考えると、とうとう来てしまったか、という気持ちになった。勿論、ヒサシとアスカが関係を持ったなどとはさすがに思ってはいなかったが、アスカがヒサシのことを特別に意識し、ヒサシもまた同じ気持ちでいることは安易に想像がついた。でなければ、あの動揺は説明がつかないと思った。
 シンゴが寝返りを打つと、隣で寝ているアスカの気配も動いた。こんなに近くにいるのに、気持ちはこんなにも遠い。その事実を目の当たりにして、シンゴは遣る瀬無い気持ちになった。
 言葉で伝えることは容易い。けれど、正確に相手に気持ちを届けることは容易ではない。正しく伝わらないのなら、伝える意味はあるのか、問いたくなる。けれども、何もしないでただじっとしているよりは、それが無駄なことに思えても何かした方がいいとも思った。堂々巡りの思考を打ち切るように大きな溜め息をつくと、シンゴは静かに目を閉じた。夜はまだ始まったばかりだった。

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