「サシアイ」7話

 珍しい麹を使った日本酒だの、歴史上の人物が醸造した焼酎だの、果ては酒瓶自体が年代物の陶磁だの、珍しい酒の噂を耳にすれば、東西南北、何処へでも向かった。
 槇村に試飲会で勝利する━プライドと嫉妬、伴う知識探究への喜び、様々な要素が相まって、いまや俺の生活はそれだけに占められていた。
 自然と大学は休みがちになり、この一ヶ月は顔も出していない。
 今日等、同じ学科の友人が心配し、電話をよこしてくれた。
「おい、どうして大学来ないんだよ!
 このままじゃ単位が足りなくなるの、分かってんだろ!?」
「いや、心配させて悪いな。ちょっと調べ物が忙しくってさ」
「調べ物?
 論文か何か、か? なんなら協力するぜ?」
「ああ、うん、そうだな。
 お前さ、何か珍しい酒とか、うまい酒とか知らないか?」
 絶句に次いでの深いため息。俺の酒好きを知っているせいもあり、さすがに友人は呆れたらしい。
 そのまま電話を叩き切ろうとするのを慌てて止める。ひとつだけ確認したい事があったのだ。
「時に槇村━槇村卓はどうしてる?」
「ああ、お前と同様にずっと休んでるよ。
 休みの時期が完全に被っているもんだから、お前らおかしな仲なんじゃないかと疑われてるぜ」
 予想通りだ。試飲会では余裕を見せてはいるが、既に槇村もネタ切れに違いない。俺と同様、全国を駆けずり回って、奇酒を求めているのだろう。

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