小説「サークル○サークル」01-70. 「動揺」

「口説かれたの」
「えっ!?」
 アスカの言葉にシンゴは目を丸くした。
「口説かれたって、君が?」
「私以外の誰の話をするのよ」
「そりゃそうだけど……。そうか、君が口説かれたのか……」
「何? 私が口説かれることがそんなに不思議?」
 少しむっとした様子で言うアスカに、慌ててシンゴはかぶりを振った。
「そんなこと言っていないじゃないか。いや、まさか、君にまで接触を図ろうとするなんて、大した度胸だな、と思って」
「それどういう意味?」
「あっ、えっと、君が思っているような意味じゃなくて、別れさせ屋である君を口説くなんて、度胸があるって意味」
 言い繕うのに必死なシンゴは額に汗を滲ませている。「まぁ、いいわ」と言って、アスカはほうとうを啜った。
「それで、君はどうしたの?」
「断ったわよ」
「なんて?」
「お相手の方に申し訳ないですって」
「へぇ……」
「何よ、誘いに乗った方が良かったわけ?」
 アスカは言って、シンゴを睨みつける。シンゴは大袈裟に首を左右に振って見せた。
「そんなこと思うわけないじゃないか。ちゃんと断ってくれて、安心したよ」
「でしょうね」
 アスカはつっけんどんに言い放つと、今度ははらこめしに手を伸ばした。

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