小説「サークル○サークル」01-69. 「動揺」

 アスカが深夜に家に着くと、シンゴは珍しく起きていた。
「おかえり」
 笑顔で出迎える夫にアスカは「ただいま」と応える。昨夜、会話があった所為か、以前ほどシンゴに対して、嫌な感情はなかった。アスカは脱いだコートをハンガーにかけると食卓に着き、シンゴはタイミング良く、温かい食事をアスカの前に並べた。
「夜も遅いから、あまり重くないものにしたよ」
 シンゴに言われて、アスカは目の前の食事に視線を落とした。はらこめしとほうとうが湯気を立てている。小鉢には小松菜が入っていた。
「健康的ね」
 アスカの言葉にシンゴは満足そうに頷いた。
「君のことだから、カロリーも気にするだろうと思って、和食にしたんだよ」
 シンゴの言葉にアスカは素直に「ありがとう」と言った。「いただきます」と言って、彼女は食事を始める。シンゴもそれに付き合う形で向かいの席に座った。
「夜遅くまで大変だね」
「えぇ、そうね。でも、大分慣れたわ」
「今日もターゲットは他の女を連れて来た?」
「えぇ。毎回、違う女なのには本当に呆れるわ。そう言えば……」
 アスカはほうとうを持ち上げて、手を止めた。
「そう言えば?」
 鸚鵡返しに問うシンゴにアスカは黙ったまま、視線を彷徨わせた。言うか言わないか、一瞬心に躊躇いが生じたのだ。しばらくして、アスカは口を開いた。

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