小説「サークル○サークル」01-67. 「動揺」

 ヒサシと女のことが気になったが、アスカはちらちらと少し離れた場所から見ることしか出来ずにいた。会話の内容を知りたい――いや、仕事の一環として聞かなければならない、と思うのだが、いかんせん、身体が思うように動かなかった。知りたいと思う反面、どこかで知ることを怖いと思っている自分がいるのだ。
 こんなことでどうするの、仕事なのに。そう思ってはみても言いようのない、釈然としない気持ちだけが頃の奥底に滞留するのを感じていた。
 そうこうしているうちに、ヒサシが片手を挙げた。アスカは一瞬ドキリとしたものの、平静を装い、ヒサシたちの前に行く。
「お待たせ致しました」
 アスカはいつもと同じセリフを口にする。
「チェックをお願いします」
 ヒサシは口元に薄っすら笑みを浮かべ言った。「かしこまりました」とアスカは伝票を取りに行く。
これからきっとヒサシと女はベッドをともにするのだろう。仕方のないことだけれど、なんだか遣る瀬ない気持ちになった。アスカは伝票とカルトンを持ち、再びヒサシたちの前へと行く。締めつけるような空しさだけが、アスカの心の中を支配していった。

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