小説「サークル○サークル」01-65. 「動揺」

 しばらくすると、ヒサシの隣に座っていた女が化粧室の場所をアスカに訊き、席を立った。
「今日はいつもと雰囲気が違いますね」
 ヒサシは女の姿が見えなくなると、アスカに笑顔を向ける。そういう抜かりのなさにアスカは苦笑しそうになった。そして、「あぁ」と言って、彼女は髪留めに手をやる。今日は髪をアップにしていた。
「……変ですか?」
 アスカは急に不安になって訊く。そんなアスカをヒサシは優しい眼差しで見据えた。
「いえ、とてもお似合ですよ。いつもより、色っぽく感じるけどね」
 ヒサシの言葉にアスカは自分の頬が高揚していくのを感じていた。
「それはありがとうございます」
 店内が薄暗くて良かったと思いながら、アスカは頭を下げた。これ以上、ヒサシの前にいることが恥ずかしくて、アスカがヒサシの前から立ち去ろうとしたその時だった。
「ねぇ、今日、この後、空いてる?」
「えっ……?」
 突然過ぎる言葉に思わず聞き返す。アスカはヒサシの目を見た。その目は真剣そのものだ。一瞬、胸が高鳴った。が、アスカはすぐに自分の立場を思い出す。冷静さを失っては、この仕事を遂行することなど到底出来はしない。アスカは過ぎった気持ちを悟られないようににっこりと微笑んだ。

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