小説「サークル○サークル」01-64. 「動揺」

 翌日の夜、アスカはバーにいた。マキコの依頼再開の申し出があった場合に対応出来るように、少なくともあと1ヶ月は働くつもりでいた。しかし、アスカがバーで働くのは決してそれだけが理由ではなかった。視線の先にはヒサシがいる。心のどこかでアスカはヒサシのことをもう少し知りたいという好奇心に駆られていた。
 今まで様々な仕事を請け負ってきたが、一度もターゲットに対して、こんな感情を持ったことはなかった。アスカはいつだって、正確に業務を遂行していたし、ターゲットに心を奪われるようなこともなかった。けれど、ヒサシに会った時、今まで感じたことのない感情が自分のお腹の底から沸々と湧き上がって来るのを感じていた。それはヒサシに会えば会うだけ大きくなっていく。アスカに旦那がおらず、ヒサシがターゲットでなければ、恋と呼ぶにふさわしい感情だったかもしれなかったが、そんな感情をアスカがターゲットであるヒサシに持つことなど許されるわけがなかった。ここでヒサシに恋をしてしまっては、アスカの仕事は台無しだ。アスカは自分の感情に気付かない振りをしながら、しかし目だけはしっかりとヒサシを追っていた。だが、その横には今日も可愛いという言葉がよく似合う女が座っていた。

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