小説「サークル○サークル」01-63. 「動揺」

「依頼者がケータイを見て、ターゲットの浮気と浮気相手もわかってたわけでしょう? なのに、どうして私のところに依頼に来たのかしら……?」
 アスカはシンゴから視線を外し、テーブルに並べられた食べかけの食事に視線を落とした。
「それは家庭に波風を立てずに別れさせてほしいからだろう? 依頼者がターゲットを問い詰めたりしたら、浮気をやめたとしてもわだかまりは残るからね。それに自分で問い詰めて、ターゲットが浮気相手を選ぶのが怖いからじゃないの?」
「それはそうかもしれないけど……。なんか腑に落ちないっていうか……」
 アスカは自分の仕事の甘さに憤りを感じつつ、言いようのない違和感を覚えていた。何かが引っかかる。けれど、何が引っかかっているのかアスカ自身にもよくわからなかった。その引っかかりの一つであろうことをアスカは躊躇いながらも口にした。
「あのね、依頼者は妊娠してるのよ。妊娠がわかったら、急に夫が優しくなるとかってよく聞く話じゃない? 妊娠してるなら、妊娠を伝えて、浮気をやめてもらうことって、有効な方法な気がするんだけど……」
「でも、浮気が一番多い時期っていうのは、奥さんの妊娠してる時だとも言うよね」
「確かに……」
 アスカは腕を組み再び唸り出した。パエリアもスープもすでに冷め切ってしまっていた。

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