小説「サークル○サークル」01-428. 「加速」

どうかしたかって……とアスカは思う。私が気が付いていないとでも思っているのか、とアスカは言いたくなったが、それをぐっと堪えて、努めてにこやかに微笑んだ。
「ええ、私もあの日、喫茶店にいたんですよ」
「えっ? そうだったのですか? だったら、声をかけてくださればいいのに……」
「ご主人も一緒だったの、お気付きになられませんでしたか?」
マキコはアスカのその言葉を聞いた瞬間、眉間に皺を寄せた。
「主人と喫茶店で? 全然気が付かなかったですけど……」
その言葉に今度はアスカが眉間に皺を寄せた。
彼女はあの場所に不倫相手といながら、しらを切りとおそうとしているのだろうか?
アスカは次に問うべき事柄を考えながら、紅茶に口をつけた。
「その後、ご主人とはいかがですか?」
アスカは意気消沈して、去って行ったヒサシのことを思い出して訊いた。
「最近、元気がありません。きっと、不倫相手と別れたことが堪えているんだと思います」
マキコは悲しそうに俯きながら言った。


dummy dummy dummy